原発性局所多汗症

 

多汗症には特に原因のない原発性(特発性)と、他の疾患に合併して起きる続発性多汗症があります。

全身の発汗が増加する全身性多汗症と体の一部だけで発汗が増加する局所多汗症に分類されます。

原発性局所多汗症は、明らかな原因がないまま体の一部に6ヶ月以上多量の発汗が続き、次の6つの症状

1.発症が25歳以下

2.左右対称性に多汗がある

3.睡眠中は多汗が止まっている

4.週1回以上の多汗がある

5.家族歴がある

6.多汗の症状により日常生活に支障をきたす

のうち、2つ以上を満たす場合に診断されます。

このような多汗が脇の下で起こるのが腋窩多汗症、手のひらや足の裏で起こるのが掌蹠多汗症です。

 

<治療> (当院では以下のすべての治療に対応しています。)

汗はエクリン汗腺から分泌されます。これは交感神経から出たアセチルコリンという物質が受容体(エクリン汗腺のムスカリン受容体(M3))に結合して起こります。

下の3つの薬剤はこのムスカリン受容体(M3)に作用してアセチルコリンが結合できなくすることで、発汗を減らすことができます。腋窩の場合と手足の場合で認可されている治療が異なります。

 

下の3つの外用剤に共通して、使用時の注意点は以下のようになります。

  • 前立腺肥大のある方、閉塞隅角緑内障の方は使用できません.
  • 手についた薬が目に入ると散瞳(瞳孔が開くこと)や刺激感がでる場合があります。
  • 皮膚炎や赤み、かゆみがでることがあります。また傷がある所にはは外用を避けてください。
  • 手についたら洗いましょう。

<手汗に使える外用剤>

1.オキシブチニン塩酸塩ローション(アポハイドローション®)

手のひらの多汗症に対して使える外用薬です。1日1回、寝る前に手のひら全体に塗布します。

スプレータイプで、3-5プッシュを両手に塗ります。

外用することで、汗の量が半分未満になる方の割合は72.6%とされています。

 

<腋窩多汗症(ワキ汗)に使える外用剤>

1.ソフピロニウム臭化物ゲル(エクロックゲル®)

  • 1日1回、入浴後に外用となっています。朝に外用しても問題ないそうです。
  • 容器のキャップをひねって戻すと片脇1回分のジェルが出ますのでそれを片方に外用します。
  • 同じようにしてもう片方にも外用します。

臨床試験のデータでは、

  • 76.9%の方で発汗量が半分以下になり、
  • 82.7%の方で多汗症による生活上の支障がほぼなくなりました。
  • また、発汗量が半分以下になり、かつ生活上の支障がほぼなくなる方の割合は63.5%でした。

3.グリコピロニウムトシル酸塩(ラピフォートワイプ®)

・シート状の不織布が薬液にひとつひとつ個包装に密封されています。

・1枚を左右の腋窩に夜に塗ります。

臨床試験のデータでは、

  • 85.3%の方で発汗量が半分以下になり、
  • 64.3%の方で多汗症による生活上の支障がほぼなくなりました。

<水道水イオントフォレーシス療法>

掌蹠、および腋窩多汗症に対して行う治療の一つで、両側患部に水道水を浸したパッドをあて、電流を流すことで発汗を減少させる治療です。水素イオンが汗の出口を狭くして発汗が減少するとされています。

保険適用となっている治療です。

週1回程度の治療で、1回の治療時間は15分程度となります。大きな副作用はありません。

ただし治療を中断すると効果が減少していくことが多く、発汗減少を維持するには継続した治療が必要となります。

 

(塩化アルミニウム外用療)

10-50%の塩化アルミニウム溶液を患部に外用する治療です。

アルミニウムイオンが汗の通り道の細胞を変化させ、閉塞させることで発汗が減るとされています。

保険適用の薬剤がないため、院内製剤として一般には処方されています。

腋窩、手足のどちらにも使えます。

就寝前に1日1回、乾いた状態で外用してください。

効果が現れるまでは毎日行うのが良いとされています。

効果が出たら間隔を開けて外用を続けたほうが効果が持続します。

副作用としては外用剤による刺激感やかぶれの症状があり、その症状が強い場合は中止する必要があります。

 

<A型ボツリヌス菌毒素製剤(ボトックス®)局注療法>

ボツリヌス菌が産生するA型ボツリヌス菌毒素(以下ボトックス)は神経筋接合部で神経伝達物質の放出を抑制しますが、この毒素を皮膚の浅い部位に注射する治療です。

今では日本を含め90カ国以上で原発性腋窩多汗症(ワキ汗)の治療として認可されています。

発汗のために頻繁に、あるいは常に日常生活に支障をきたす重症な腋窩多汗症の方が適応となります。

<治療方法>
ボトックスを腋窩のごく浅い層に注射します。

  • およそ片側20カ所程度に注射します。
  • 発汗減少の効果は注射後2-3日で現れ、およそ4-9ヶ月持続するとされています。
  • 実際には半年から1年に1回の頻度で治療を受けられる方が多いです。
  • 根治療法ではないため、効果を維持するためには再度治療を行う必要があります。
  • 筋肉の動きを止める作用のありますが、深さ2ミリ程度の皮内にしか注射しないため、筋肉への異常が出ることはまずありません。

国内臨床試験では144人中3人で腋窩以外の部位での多汗が生じたと報告されています。

この治療は保険診療となっています。3割負担の方で自己負担額が2万5千円程度となります。

 

4.内服療法

いくつもの場所で過剰な発汗がある場合、頭や全身からの汗が多い場合は、内服治療も一つの方法です。保険適用での治療です。

プロパンテリン臭化物の抗コリン作用で、自律神経を調節し、発汗異常を治そうというものです。

効果はありますが、個人差があります。また口の乾き、眠気、便秘、頭痛などの副作用に注意が必要です。

また緑内障、前立腺肥大、心臓疾患(うっ血性心不全や不整脈)、潰瘍性大腸炎などがある方は内服が出来ません。